「患者よ、がんと闘うな」というタイトルの本で、一部のがん
患者から支持を受けていた近藤誠医師が亡くなりました。通勤中
に心筋梗塞の発作が起きたようです。ご冥福をお祈りいたします。
近年の近藤誠医師は、残念ながらアンチ医学的なタイトルの本
ばかりを書いていたように思います。彼の本を読んでないので
内容に触れることはしませんが、タイトルから想像しています。
本の内容はともあれ、近藤誠医師は非常に優秀な医師だったと
考えています。国内で今は当たり前のように行われている乳がん
の手術、乳房温存術を日本に導入した立役者の一人です。
それまでは乳房と胸の筋肉を取り去るのが一般的で、外見は
もとより機能面においても大きな障害を残す手術でした。
その点で、近藤誠医師は多くの日本女性の乳房を守ってきたと
言えるでしょう。
ところが、いつの間にかアンチ現代医学のようになり、個人的
には残念に思っていました。それでも、一定の支持をされていた
のは、現代医学や主治医に対する不信感があるからだと受け止め
ます。
近藤誠医師は放射線科医ですから、多くのがん患者に接した
経験から「がんと闘うな」というメッセージを出すに至りました。
ほとんどのがん患者は、医師からも家族や友人からも「がんと
闘え!」と励まされます。
もちろん、医療としては当たり前のことですし、家族や友人も
本人の回復を願ってのことです。ただ、そのメッセージを受ける
がん患者本人には、大きな負担になるタイミングもあるのです。
がん告知の後だったり、治療の効果が今一つだったり、治療の
副作用がつらい場合など、がんとの戦いに疲れているタイミング
では、「これ以上は頑張れない、闘いたくない」という気持ちに
なっても不思議ではありません。
そんな疲れた患者さんたちに寄り添っていたからこそ「患者よ
がんと闘うな」というアンチ医学なタイトルになったのでしょう。
乳房温存術にしても、闘うなというメッセージにしても、臨床医
として優秀だったからこその実績と考えます。
がん医療の進歩は目まぐるしいものがあります。ただ、その
進歩のスピードと、私ら医療者のソフトな部分のバランスが
崩れているのではないでしょうか。
近藤誠医師に直接会うことはありませんでしたが、改めて
ご冥福をお祈りいたします。
そして、医療のソフト面を充実させるよう精進を続けたいと
思います。
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